妖怪の話
「琴助太郎とめん」という昔話です。
初夏のころになると、屋久島沿岸は飛魚漁業が行なわれて、たいそうにぎやかです。
むかし、屋久島で飛魚がものすごくたくさんとれたことがありました。
ところがそれを塩づけにする塩がたらずに、宮之浦の人たちは楠川の店まで買いに行くありさまでした。
ある日、宮之浦の琴助太郎という人が馬をひっぱって楠川に行きました。
そして塩を二俵、馬に積んで帰ってきおったところが、鳥越の谷という谷にさしかかったころ、うしろのほうから、
「琴助太郎、琴助太郎」
と大声で呼ぶ人がおります。
琴助太郎がひょっとうしろを見たところが、
「あっ」
と息がつまる思いがしました。
なんと、目が一つ、口が一つ、足が一本あるものがうしろから飛んできおったのです。琴助太郎は、
「うあっ、今度こそもう食われたもんじゃ」
と思って、一生懸命馬の尻をたたいて逃げましたが、そのめん(妖怪)はうしろに迫って、
「琴助太郎、塩なめさせえ、塩なめさせえ」
と今にも飛びかからんばかりです。